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ヘルサンスティグと日本社会

HÄLSANS STIG AND JAPANESE SOCIETY

超高齢化する日本社会

日本は世界に先駆けて「超高齢社会」に突入し、65歳以上の人口はすでに全体の3割近くを占めています。今後も高齢化は加速し、2040年には3人に1人が高齢者になると予測されています。これに伴い、医療や介護にかかる社会保障費は増大し、労働力不足や地域コミュニティの衰退、そして高齢者の孤立といった課題が深刻化しています。特に「健康寿命」と「平均寿命」の差、すなわち自立して生活できない期間が問題視されており、この差を縮めることが社会全体の持続可能性に直結しています。

参考:内閣府「令和7年版高齢社会白書」

Well-beingとランニング/ウォーキング

そのためには、日常生活に無理なく取り入れられる運動習慣の定着が欠かせません。

数ある運動の中でも、最も多くの人々に実践され、かつ健康効果が明確に示されているのがウォーキングやランニングです。厚生労働省の調査でも、日常的に行う運動の第一位はウォーキングであり、年齢や体力を問わず続けられることが最大のメリットです。

また、一定以上の強度を伴うランニングは心肺機能や筋力の維持・向上に効果的であり、中高年層の生活習慣病予防にも寄与します。 研究においても、ウォーキングやランニングは心血管疾患や糖尿病、認知症などのリスクを低下させることが示されています。さらに、1日30分程度の歩行習慣は健康寿命の延伸につながるとされ、WHOや日本の健康政策においても推奨されています。

特別な設備を必要とせず、身近な環境で始められる点も社会的に大きな価値を持っています。高齢化によって医療や介護の負担が増す日本において、ウォーキングやランニングは最も身近で実行可能な「予防医療」として、今後ますます重要性を高めていくでしょう。

参考:厚生労働省「健康づくりのための身体活動基準・指針の改訂に関する検討会」

ヘルサンスティグの可能性

ただし、「健康のため」という目的だけでウォーキング/ランニングを続け、習慣化することはなかなか容易ではありません。

公益財団法人笹川スポーツ財団(SSF)の調査によると、日本のランニング・ジョギング実施人口はコロナ禍を経て減少傾向にあります。2020年のコロナ禍では外出制限の影響もあり一時的に増加しましたが、2023年以降は再び減少し、約1,000万人前後(年1回以上ランニングする人)で頭打ちとなっています。これは、日本の人口の1割未満にあたる規模であり、競技・趣味としてのランニングは すでに成熟市場に達しているといえます。つまり、

・「走りたい人」にはすでに行き届いている
・今後は「走らない人」「運動習慣のない人」へのアプローチが鍵

この現実が、ランニングイベントやマラソン大会だけに依存する健康施策の限界を示しています。 またウォーキングについても週1回以上の「散歩、ウォーキング」の人口は2022年で3795万人で、ここ最近は微増しているものの2010年の3748万人と比べても成熟していると言えます。

一方で、私たちは日常生活の中で「知らず知らずのうちに歩いている」ことがあります。たとえば、ディズニーランドやUSJを訪れた日には、1日で1万〜2万歩を超えることも珍しくありません。旅行中には自然と歩行距離が伸び、「疲れたけど気持ちよかった」と感じる人も多いのではないでしょうか。 この違いは、「歩くこと・走ること」を“目的”ではなく“体験の手段”として捉えているかどうかにあります。人は「走るために走る」と疲れるが、「楽しむために走る」と続けられるのではないでしょうか。いま求められているのは、「ランニング人口を増やすこと」ではなく、「歩く・走ることに意味を感じる人を増やすこと」ではないでしょうか。

そうした中、スウェーデン発祥の「ヘルサンスティグ(健康への道)」は、一つの光明となる可能性があります。

ヘルサンスティグは、「一過性のイベント(イベント型スポーツ)」ではなく、「日常に根付く仕組み(地域の健康インフラ)」であることが特徴で、持続可能で多世代に開かれた仕組みを作り、地域の身近な場所に3〜6キロの周回ルートを整備し、住民が日常的に歩くことを促す取り組みです。

これは高齢化が進む日本社会において、健康寿命の延伸、介護予防、さらには地域コミュニティの再生にもつながる可能性を持っています。

ヘルサンスティグの特長

日常性

ランニング大会は、1回あたり数千万円以上の予算と各所への調整など大掛かりになりがちです。ヘルサンスティグが目指すのは、小・中規模でも年に複数回開催できるイベントであったり、日常において誰でも自由に活用できるインフラの整備なのです。

多世代参加

ランニングイベントは競技志向の参加者が中心となりがちですが、ヘルサンスティグは高齢者から子ども、観光客まで幅広く参加可能であることを目指します。健康づくりのハードルを下げ、住民全員に開かれた仕組みです。

健康と交流
の手段

記録や順位を目指すのではなく、「健康増進」「観光」「地域交流」のための手段としてランニング・ウォーキングを位置付けています。運動を楽しみながら、地域の魅力を体験できることを目指します。

地域資源
との融合

公園や川沿い、歴史的建造物、地元カフェなど、地域がもともと持っている資源を活用します。地域の価値を再発見できる仕掛けです。

コミュニティ
形成

日常的に住民が集い、歩き、走る場・イベントにより、世代や背景を超えた交流が生まれます。地域の健康づくりとともに「人がつながる仕組み」としても機能します。

画像出典:[Holger.Ellgaard] [CC BY-SA]